関係人口とは
- Kita no Michi 北海道 ドローン撮影
- 2023年12月6日
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人口減少が進む地域をいかに活性化させるかという国の政策、すなわち「地方創生」においては、観光振興による「交流人口」の拡大と、生活環境の整備やシティプロモーションなどによる「定住人口」の獲得が中心的な施策になっていますが、昨今、観光でも定住でもない地域外の人々との多様なつながり方を考える「関係人口」という考え方が注目されています。本稿ではまずこの「関係人口」の概要を俯瞰し、昨年から筆者がファシリテーターとして参加している長野県高森町における「関係人口」づくりの取り組みについて紹介します。そもそも“地域外の人々との多様な交流”は観光が担う領域*1ともいえます。しかし、昨今の観光政策において使われている「交流人口」というワードは、観光入込数×観光消費による直接的な経済効果を求める、すなわち旅行者をたんに消費の単位として考える狭い意味合いが持たされてしまっているようにも見えます。一方で、地域への移住者を募り「定住人口」の獲得を目的とする取り組みとして、自治体は生活環境の整備やシティプロモーションなど移住促進のための施策を行っていますが、“このまちに骨を埋める覚悟はあるか”という地域側の強い想いが、いずれ地域で暮らしてみたい、地域で自分を活かしてみたいと考えている人にとって非常に高いハードルになっているものと思われます。「関係人口」の取り組みはこの狭義の観光=「交流人口」と心理的なハードルの高い移住=「定住人口」の間、地域外の人々と地域の多様で継続的な関わり方を考える取り組みとして語られています。
※明治大学農学部教授の小田切徳美氏は「関係人口」を「農村に対し多様な関心を持ち多様に関わる人の総称」と定義し、(1)地域の特産品の購入⇒(2)地域への寄付⇒(3)頻繁な訪問⇒(4)地域でのボランティア活動⇒(5)準定住(二地域居住など)⇒(6)移住・定住という「関わりの段階」で説明しています。一言でいうと、地域のファン、地域の課題解決にも関わってもらえる地域外の人々とのネットワークを拡げる取り組みといえるのではないでしょうか。では、都市居住者で地域と関係を築きたいと考える人々はどの程度いるのでしょうか。2014年の内閣府による農山漁村に関する世論調査*2の結果を見ると、農山漁村地域への定住願望がある都市居住者は全体で31.6%おり、2009年度の調査結果(20.6%)を大きく上回っています。女性と比べ男性で意向者は多く見られ、特に20代男性では47.4%と多くが意向を示しています。ローカル・ジャーナリストの田中輝美氏(2017)は、都市の若い世代を中心に関わりたい場所としての地方への関心が高まっており、「ソーシャル」な志向性が若者の特徴となっているとしています。また、雑誌「ソトコト」の編集長である指出一正氏(2016)は、バブル崩壊後に育った世代の価値観について、小さなコミュニティの属性や多様な嗜好性、仲間との共感性などに価値を置き行動する「ソーシャルネイティブ世代」と表現し、このような価値観がリーマンショック以降に顕著に表れたとしています。2014年に出版された伊藤洋志氏&pha氏(2014)の著書、『フルサトをつくる 帰れば喰うに困らない場所を持つ暮らし』は、「地方創生」のタイミングと重なり話題になりました。京大出の二人が熊野にシェアハウスをつくり二地域居住をした体験から、“拠点がいくつかあった方が思考は柔軟になる”、“都会か田舎かという二者択一を超える住まい方を考えたい”といったように、まさに「関係人口」が語る定住ではない地域との継続的な関係の在り方などについて語っており、都市生活者の「関係人口」の考え方、逆に「関係人口」を模索する地域の在り方など柔軟で示唆的な考え方が提示されています。総務省は平成30年度「関係人口」創出事業として賛同する自治体を募集し、地域との関わりを持つ人たち(地域にルーツのある者や地域に一定の関心を持つふるさと納税者など)や、これから地域と何等かの関わりを持ちたいと考えている人たちに対し、地域とのつながりの機会づくりや、地域課題の解決等に継続的に関わるきっかけを提供する事業を実施しました。各自治体で様々な取り組みが行われていますが、新たなキーワードが生まれると、話題性の高い事業内容が優良事例として他の自治体にもヨコ展開される中で、「関係人口」という考え方が持つ本来の意味、地域ごとに異なる柔軟な発想が薄れてしまわないよう注意する必要があります。これは観光でも同様ですね。指出氏(2017)が「大切なのは全体ではなく個としての存在をしっかりと歓迎することです。そろそろ人を数で語る時代とはさよならをして、顔と名前を覚える時代が『地方創生』の次なるステップになるかもしれません」というように、著者も地域内外の多様なキャラクター、人財をどう結び付けていくかを地域ごとに模索していくこと、それにより様々な取り組みが生まれる場を育てていくことが重要ではないかと感じています。これはこれからの地域の観光を考えていく上でも重要なポイントになるのではないでしょうか。
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