地域戦略に悩んだ時にふりかえってみる!
- Kita no Michi 北海道 ドローン撮影
- 2024年7月12日
- 読了時間: 21分
盛岡出張で盛岡市内のビジネスホテルに泊まるのも面白味がないと思い、紫波町のオガールインに泊まり、オガールの施設を視察してきました。地域活性化の取り組みであちらこちらで紹介されているのでご存知の方も多いかと思いますがオガール紫波は約10haの町有地を公民連携により再開発した施設群です。バレーボール練習専用の体育館があり、その他に図書館、町役場、病院、マルシェ、居酒屋、コンビニなど生活関連施設が集まっています。現在も新しい建物が建設中です。
下の写真はバレーボールコートと宿泊施設のある建物です。宿泊施設はツインがシングルユースで5500円です。
下の写真は紫波マルシェです。野菜だけでなく、肉、魚、お惣菜、手作りお菓子など様々なものが売っております。産直売り場というよりは立派なスーパーといった感じでした。干し柿(6個150円)とリンゴ(140円)、ラフランス(150円)のチップを買って帰ってました
下の写真は紫波町役場です。とてもきれいな建物です。町の経済の中心は農業であり、環境循環型経済を町づくりのコンセプトとしています。
作者: 猪谷千香
出版社/メーカー: 幻冬舎
発売日: 2016/09/26
メディア: 単行本
田中輝美(2021)は『関係人口の社会学』において”関係人口”に関する最近の議論と事例をまとめている。
地域活性化においては、若者、よそ者、バカ者の参加が必要と言われてきた。そのよそ者の効果として5つある。その5つとは、①地域の再発見効果、②誇りの涵養効果、③知識移転効果、④地域の変容を促進、⑤しがらみのない立場からの問題解決、である。 (敷田麻美2009)(p116)
近年、総務省などの政策もあり、地方創生の取組みにおいてよそ者である”関係人口”という言葉が聞かれる。似たような言葉として”交流人口”という言葉があるが、交流人口とは一般的には観光客を意味するが、”関係人口”とは明確な定義はなく、「地域と関わりを持つ外部者」(田口2017、p15)と認識されている。移住などによる人口増加が難しい現状においては、関係人口の増加は地域活性化の切り札の一つとして期待されている。
結論から紹介すると、田中は本書で明らかになったこととして次の三点を紹介している。(p308)①関係人口は、地域住民と社会関係資本を構築する過程で地域再生主体として形成される。②その関係人口と社会関係資本を構築する過程で、新たな地域住民が地域再生主体として形成され、両者の共同という相互作用によって創発的な地域課題の解決が可能になる。関係人口が地域再生に果たす役割は、地域再生主体の形成と、創発的な地域課題解決の二つである。③地域再生主体が多層的に形成され、地域課題が解決され続けるという連続的過程が地域再生であり、現代社会の地域再生において目指すべきあり方である、
として、関係人口を地域再生にしっかり組み込むことが必要とされている。
その中で、地域再生を目指す上で関係人口の創出・拡大は「手段」であって、決して目的ではない(p320)、としている。確かに、関係人口を交流人口の延長線上に位置づけてしまうと、関係人口も量を追い求めてしまうことになってしまう。それよりも、関係人口の質・機能の向上が地域再生のためには重要である。
関係人口としての参画者と地域側の地域再生主体との形成過程は、共通して大きく次の三つのステップに分かれている(p245)。①関係人口が地域課題の解決に動き出す②関係人口と地域住民の間に信頼関係ができる③地域住民が地域課題の解決に動き出す
そして、関係人口が地域再生主体として形成されるための条件を検討すると、次の三つの条件が考えられる(p266)。①関心の対象が地域課題である。②その解決に取り組むことで地域と関与する③地域住民と信頼関係を築く
一般的に言って、共通する地域再生プロセスは4期の段階を踏まえている。Ⅰ期は、地域において解決すべき課題が顕在化する段階である。Ⅱ期では、顕在化した地域課題と自身の関心が一致する地域外の主体、つまり、関係人口がその解決に関わるようになる。Ⅲ期は、Ⅱ期で登場した関係人口の影響を受け、地域住民が新たに地域再生主体として形成されていく段階である。Ⅳ期は、顕在化した地域課題が創発的に解決される段階である(p276)。地域においては関係人口が求められるわけだが、信頼性と異質性という、相反する要素を両立させるアンビバレントさが「近さと遠さのダイナミクス」であり、この二つを兼ね備えることで、地域再生の主体として最大限に効果を発現する可能性が生まれるのである。だからと言って、地域社会がこうした二つをもともと兼ね備えているような、いわゆる「スーパースター」的な関係人口だけを選んで呼び込もうと考えたとしたら、その態度は誤っていると言わざると得ない(p300)。
関係人口がすべての地域課題を解決できるわけもなく、むしろ関係人口の数は少なくてもいいとも言うことができる。多くなればなるほど、関係の質を担保することは難しくなるだろう。かつて都市農村交流で起こった「交流疲れ」現象ならぬ「関係疲れ」現象を生んでいくことにもなりかねない(p301)。
関係人口は地方創生の特効薬ではない。しかし、地方自治体は、総務省の「関係人口創出事業」などの政策フレームワークに捉われることなく、関係人口というよそ者のもつ機能を地域創生の取組みに組込むことが求められる。
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関係人口に関しては河井先生の著書もある。関心ある人は重ねて読んでみるのも良いだろう。
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イノベーションのネットワークは、それを構成する企業や大学およびそれらに所属する人々が特定の目的や言語(コード)、文脈を共有しコミュニケーションを密に行っていくことでイノベーションのコミュニティへと発展していきます。
コミュニティとは、地域共同体と捉えられてくることが多かったが、イノベーションのコミュニティとは、必ずしもローカル・コミュニティのように地域のメンバー間で関係が維持される地域社会を意味するものではなく、地域のメンバーを越えた関係を構築していきます。
イノベーションのコミュニティでは開発者同士だけではなくユーザーとの関りが重要である。イノベーションでは、既存顧客を先導し、そして潜在的な新しい顧客を見つけ出すことだけでなく、ユーザーのニーズを理解し、先導的なユーザーを取り込むことによって生まれるユーザー・イノベーションがあります。
通常、ユーザーは、製品の改善点について深い洞察をもっているので、イノベーションの実験の重要な参加者となりえる。新製品・新サービス開発における新しいアイデアは、突然浮かぶのではなく市場の要求に対して多くの実験と繰り返しの試行錯誤の結果生まれるものであります。
イノベーションの中には、分析と行動のフィードバックとしての効果的な学習と、組織・部門を越えた情報・知識の効率的な統合を同時に実現させていくことがポイントです。そのユーザー・イノベーションには2つのアプローチがあります。
一つは、既存市場において具体的なユーザーに対して市場のニーズを把握するものであり、テスト販売などがあげられる。そのためのコミュニティはテストベッドと言われることが多です。
もう一つは、企業の境界を越えて消費者だけでなく、供給業者、時にはライバル企業などと関係を構築し、潜在的なニーズを探索し、試作品などをユーザーや消費者に実際に使用してもらいながら作り込んでいくアプローチであり、これを発展させたモデルとしてリビングラボ です。リビングラボとは、課題を顕在化させて解決策を検討する物理的空間を含んだコミュニティであり、ユーザーを中心としてステークホルダー間のイノベーション活動のための実践的なコミュニティを意味します。
よって、製品やサービスとして展開されるその前に試作や試行を積み重ねる必要があります。
つまり、イノベーションの社会化と言えます。そのため、製品・サービスの試作、試行がされる実験を行う物理的空間が必要されている。テストベッドやリビングラボでは、知識やイノベーションの創造の基本的要素となる人間活動を組織化する必要があり、その時、協力企業やユーザー、ステークホルダーなどが集う、実証フィールドとしての地理的空間が不可欠なものとなります。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆
地域ブランディングと言えば、地域特産品のブランド化や観光における観光商品の開発においての議論が多いです。
しかし、イノベーションの創成においてもプレイス(場所)ブランディングが重要だと考えます。なぜなら、イノベーションのためには、多くの資金が必要であり、すぐれたタレント(才能ある人)が必要であり、それらの人々が活動できるコミュニティが必要であり、それらリソースを集めるには、他の地域とは違った魅力があり、それが幅広く認識される必要があるからです。
オランダのコミュニティ学者のロバート・ガバースが場所ブランディングに関する5つの原則として以下の5点を提示しています。
1.卓越性
2.正統性
3.記憶
4.共創
5.場所の創造(プレイス・メイキング)
イノベーション政策と空間政策の融合を考えた時、ブランドの構築が1つの鍵となると考えています。
(2)イノベーションの領域とマネジメント が考えられます。
各地で公的支援をうけながら新しい製品を生み出し、経済価値を生んでいるという意味でイノベーションを創出した事例がいくつか見られる。しかし、大きなインパクトを残しているとは言い難い状況です。その要因として、5点が考えられます。
第1は、ハイテクであれば革新的なイノベーションであるとは限らないのと同様に、学術的価値が高いからと言ってそこから生み出される経済的価値が高いとは限らない点が挙げられます。
イノベーションの経済的な規模や成長性は、学術的な価値には関係なく、応用分野の市場発展性やビジネスモデルの戦略性に依存すると言えます。また、多くのイノベーションの取組みにおける応用分野は成熟産業のため、イノベーションは改善(漸進)的なものになる可能性が高いです。
第2は、地域イノベーションの波及は国の産業システムに依存するということが考えられます。
多くのイノベーションとは社会を一変させるようなラディカルなものではなく、改善的(漸進的)なイノベーションでは産業システムを変革させるほどのインパクトはありません。さらに、市場が国内向けだけであったり、多品種少量生産モデルの中であれば販売量にも限りがあります。国の産業システムが成熟化しており、既存産業の成長性が低ければ、そこで創造されたイノベーションのインパクトも弱いと言えます。
第3は、イノベーションのネットワーク拠点における卓越性の未確立な点が指摘できます。
研究開発の拠点はイノベーションのためのネットワーク拠点としての卓越性を構築して国際的に認識されている状況にはなっていない例が多いです。さらに、研究開発拠点を取り囲む環境としての地域を見ると、新たな起業が見られたり、研究開発を行う企業の投資などが次々と行われている状況ではなく、必ずしもイノベーションが継続的に起こるようなイノベーション・ミリューとはなっていないです。
大学などの研究機関に所属している研究者は様々な単発の公的研究助成金をパッチワークのようにつなぎ合わせてプロジェクトを連続的に展開し、実用化につなげようとしています。その公的研究助成金事業の多くは、近年、短期間で実用化という成果を求めている。そのため、その成果が出やすいプロジェクトを行う傾向が強くなります。
第5に、イノベーションと地域経済との連鎖が課題として挙げられます。
地域自治体のイノベーション創出の目標はあくまでも地域経済の活性化にある。しかし、地域大学と地域内企業が連携して共同研究を行い、その成果が商品化されたとしても、地域で受け皿となる企業がなければ地域内での売り上げや雇用などの経済効果は限定的となります。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆
地域イノベーションは、シーズの開発からその実用化に至る研究開発から生産まで一つの地域で一貫して行われているのではなく、地域内組織で行われるフェーズもあれば地域外組織を中心に行われるフェーズもあります。
シーズとなる技術の発明者と特許の権利者、部品、最終製品の製造者はそれぞれ違う地域に立地していることが多く、また、イノベーションの担い手は企業であり、その活動は行政の領域に拘束されるものではありません。
その結果、行政の領域とイノベーション活動の領域が異なっています。
地域イノベーションは地域の主体的な関与があって成功します。
そこに地域イノベーションにおける活動と行政の領域性におけるジレンマがあります。
また、地域内でのマンネリ化と負の固定化が考えられます。
地域を行政的領域として捉えると、そのイノベーション活動は、場合によっては地域内での関係構築が優先され、地域の既得権者を中心とした設計がなされ、地域振興は既存資源の活用に拘った縮小均衡的な動きがとられることがあります。
また、地域内での担い手となりえる能力をもった企業の存在は限定的であり地域の中で同じ企業ばかりが政策の受け手となってしまうことがあります。その結果、マンネリ化つまり負の固定化(ロックイン)に陥ってしまい、革新的なイノベーションを生むことは難しくなってしまいます。
外部の知識は、イノベーション・プロセスの空いたピースを埋め、固定化(ロックイン)を避ける上で重要な役割を果たしています。
イノベーションとは、既存の価値観を打破して、新たな価値観を創出する活動です。よって、イノベーションのインパクトをより大きなものとさせるためには、地域においては、成功体験を経路依存的になぞるだけでなく、新たな知(血)を導入し地域の親和的関係を壊すことによって、新たな経路を形成していくことも必要となってきます。
地域イノベーションの一層の創出を図るのであれば、研究能力や起業活動を盛んにして地域の科学技術イノベーションのポテンシャルを上げると同時に、地方自治体のみならず国も含めて、イノベーションや産業・ビジネスに関する深い理解と戦略立案及び政策運営のキャパシティの更なる向上が必要と言えます。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆
そのため、イノベーションのコミュニティには参加者を誘引する強力な磁場(マグネット)となる拠点があります。こうした拠点では、様々な組織や人、それに伴う情報やお金が出入りして、新たな関係を構築する働きがあります。
つまり、イノベーション創出のための拠点とは、物理的な研究開発施設だけを意味するのではなく、人や情報及びお金が行き交うプラットフォームであることが求められていいます。
プラットフォームとは、従来はIT産業やネットワーク・サービス産業で重視されてきた概念であり、コミュニケーションの基盤となる道具と仕組みを備え、多様な組織の協働を促進し、新しい活用や価値を生み出す基盤を意味します(飯盛2015、国領2011)。
さらに、プラットフォームの機能として、参加者間の相互接続性が向上するため、複数の主体が相互作用することにより、意図していなかった創発現象を生む点が挙げられます(国領2011)。
IT産業における勝者総獲りの例をあげるまでもなく、ネットワーク知識社会においてもプラットフォームの構築が経済的な利益を多く生むメカニズムが働きます(Srnicek 2016)。
つまり、多くの参加者を集めたイノベーションのプラットフォームは、その価値が増大すると考えられるし、卓越性が確立されると考えられます。
また、ユーザーや開発者など多様なバックグランドを持つ参加者が多いほうが課題解決のスピードが早くなる特性をもっています。
さらに、プラットフォームの卓越性は、参加コミュニティの権威付けに結びつき、そこでの仲間づくりはイノベーションにおける新たな標準化策定につながります。
そして、最先端のプラットフォームでは、世界中のユーザーから解決策を求めて最先端の課題が集まる。それゆえ、最先端のプラットフォームでは最先端のソリューションが開発される可能性が高く、インパクトのあるイノベーションが創出される可能性が高いです。
そして、イノベーションの競争はプラットフォームという「場」を単位とする競争にシフトしています。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆
イノベーションは、ものやサービス、技術、ビジネスモデルなど様々なかたちで生み出されるが、それら創出の共通的要素として新しい知識の創造が不可欠であることがあげられます。
イノベーションのプロセスでは、例えば、研究開発では科学的原理や物性に関する知識などが、生産開発では生産ノウハウや品質、制御に関する知識が、マーケティングでは市場情報やビジネス戦略などの知識が創造され、集められ、統合されることによりイノベーションが生まれます。
イノベーションのための新たな知識を生み出す学習は、個人や企業が単独で行うものではなく、組織間の相互交流的な学習により生まれます。
イノベーション創出のプロセスにおける知識創造では、革新的な製品やサービスを生むための画期的で創造的なひらめきや創造性が重要視されます。
しかし、イノベーティブな製品やサービスを具体化していくプロセスのほとんどは、数多くの小さな発見や試行錯誤の積み重ねからなっています。
また、ひらめきや創造性とは、偶発的に生まれるのではなく、人が問題意識をもって考え続けたり、何度も試作品を作ったり、試行錯誤しながら地道な作業を積み重ねる中で生まれるものです。
つまり、イノベーションは、試行錯誤、経験、反省などの積み重ねる学習プロセスの中で生まれます。
そのため、ひらめきや創造性が生まれる環境を一部だけ抽出して、イノベーションの空間を論じるべきではなく、地道な作業を含む学習プロセスを見据えて議論すべきものです。
野澤一博(2020予定)『イノベーションの空間論』一部改筆
”イノベーション”ってその昔は”技術革新”って言われていました。しかし、いつからでしょうか?”イノベーション”とは、必ずしも技術を伴わないものもあるので”技術革新”は不適切だということで、innovationはカタカナの”イノベーション”になりました。私の記憶だと、少なくとも21世紀になってからは”技術革新”という言葉は使わず、もっぱら”イノベーション”とカタカナで標記するようになりました。私の授業でも、innovationは”技術革新”と訳してはいけないと教えています。
しかし、この”イノベーション”という言葉が”イノベーション”の普及を阻害しているような気がします。”イノベーション”という言葉の概念が曖昧な感じで、日本語として生きている感じがあまりしないように個人的には思います。
中央政府の役人や大都市の大企業の経営者などの頭の良い人たちは、”イノベーション”って言う言葉を立ちどころに把握してしまうのであろうが、どうも地方に住む者としてはあまり身近な言葉ではないような気がします。地方にいると”イノベーション”って遠い世界のもので、リアリティがありません。また、一般的にイノベーションに関するリテラシーがあまりないというのが現状だと思います。
innovationは中国語では”創新”というらしいです。でも”創新”の方が意味として捉えやすいような気がします。現在の中国では「大衆創業、万衆創新」というスローガンのもと”イノベーション”を起こすことが国民運動的に展開されています。日本人にとっても”創新”の方が馴染みやすいし、言葉として肚に座った感じがあります。
その昔、文明開化で日本に入ってきた西洋の文物を日本語に訳し、それが中国語としても使われているものもあるようです。それの逆ではありますが、中国語に訳された概念を日本語にしても良いのではないでしょうか。
”創新”という言葉は”イノベーション”という言葉よりも、特別感がなく、”イノベーション”に取り組むにあたっても、ハードルが低くより気軽に取り組み始められるような気がします。そうすれば”イノベーション”がもっとあちらこちらで行われるようになるのではないでしょうか?
私は イノベーションの場所性について考えているので、エリック・ワイナーの『世界天才紀行』について、とても興味深く読んだ。何せこの本の原題は”The Geography of Genius"なのだから。
天才を才能論で論じるのではなく、創造性は、特定の場所で、特定の時期に、輝かしい才能と革新的アイデアが大量に生み出された事実に着目している。そのため著者は、問うべきは「創造性とは何か」ではなく、「創造性はどこにあるのか」としている。
世界史をたどり、天才が生まれるのは、アテネから、杭州、フィレンツェ、エジンバラ、カルカッタ、ウィーン、シリコンバレーと、ある時代のある特定の場所において数多く現れることを示している。それは私が尊敬するイギリスの都市学者のSir Peter Hallの ”Cities in Civilization" でも示されている。著者は文筆業者であるのでそれよりも人物中心に生き生きと描かれている。
天才が生まれる場所とは、オープンな環境であり、新たな情報と、新たなアイデアをいつでも歓迎する風土が大切であると言っている。この指摘自体はフロリダの
『新 クリエイティブ資本論』と繋がる話である。
著者は天才の生まれる空間だけではなく、天才の特性についても言及している。天才とは、“しぶとい”と。たんに胆力があるとか、頑固でしつこいのではなく、“しぶとい”人たちは、機転が利き、気概があり、創造力に富んでいるらしいと。これは、つまり
『やり抜く力 GRIT(グリット)』だな。
この本は天才を扱っているが、間接的には新しい科学を生んだ場所についても言及している。”科学は国境を超える”とか”科学はユニバーサルである”とか特に自然科学を叩き込まれた人々は主張するが、歴史的に見れば、科学も特定な場所で生まれている。そこはベルファーストのクイーンズ大学のリヴィングストン教授も
『科学の地理学: 場所が問題になるとき』で論証している。
科学技術振興における空間の重要性について考える材料になる。
作者: エリック・ワイナー,Eric Weiner,関根光宏
出版社/メーカー: 早川書房
発売日: 2016/10/21
メディア: 単行本(ソフトカバー)
革新
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